カウンセラーは問題を解決するのが仕事ではない。
クライアントが問題を解決する力を身につける後押しをするのが仕事である。
クライアントがその力を身につけるためには、クライアントの弱点を明確にしなければならない。
だがそれは、思ったより骨が折れる。
この難しさが、カウンセラーとして最初に感じる壁なのかもしれない。そそりたつ壁を前に「オマエは、本当に人を救えるのか?」と詰め寄られてる気がした。
カウンセリングでぶつかる壁
カウンセリングをしていると、だれを相手にしても決まった傾向が見られる。
それは、心の深部へアクセスしようとすると、強力なブロックを食らうこと。絶対に立ち入らせないぞ!という強い拒否感を示されること。
どういうことか、詳しく見ていこう。
クライアントが最初に話すのは、周りへの不満と自身の不遇さに対する嘆き。
- 酷い扱いを受けている
- 私はこんな不幸な生い立ちだ
- 周りはこんなに悪い奴だ
自分ではなんともしがたい「外」の話をたくさんする。
当人はこれが問題の元凶だと考えているので、一旦吐き出せるだけ吐き出してもらう。その後、「外」から「内」の話に切り替えるよう促す。
すると「うーん…」と黙られる。意識を内に向けた経験に乏しいので、感情を口にするのが難しいのだ。
そこで単純な感情をこちらから例を上げて言ってみると、
- 自信がない
- 怖い
- できない
といったことを口にし出す。
これらの感情は意識上に登ったことがあるので、コツさえ掴めば出すのは難しくない。
ここまでは比較的スムースに行く。
続いて意識の下の感情にアクセスする。
クライアントに、「あなたは、何を不安に思っていますか?」「何を恐れていますか?」と尋ねる。
するとクライアントは最初、「えっ?!」という顔をする。
しばらく考えた後、「周りからこんな扱いをされるんじゃないかと不安に思う」「めちゃくちゃ声を荒げられることを恐れる」といった「周り」の話を始める。
ここでまた意識が「外」に向く。心の深部へ向かおうとすればするほど、意識は外へ外へ向けられるのだ。何かが心が内へ向くことを強力にブロックしている。
しかし狙いはそこではない。
「周り」はどうでもいい。「自分」がどうなのか、なのだ。
今まで「自分」を見たことのないクライアントは、心の深部が分厚い壁で覆われている。入ろうとしても壁が邪魔して入れない。
だから、ここで完全にフリーズする。
彼らは分からないのだ。混乱するのだ。
カウンセリングをしていると、かならずこの壁にぶつかる。
みんな表面上の感情しか分かっていない
カウンセリングを受けるほど困っていない人でもアクセスし慣れてるのは、不満や批判といった表面に近い感情。
だからトラブルになったときに、言い訳が口を突いてでる。反省を口にする人など滅多にいない。
だが、外にいくら責任を転嫁しても、問題は放置されるだけ。事態が好転するためには、深い感情に降りていって、自分の心を縛ってる縄の正体を明らかにする。その上で不必要な縄を解き、縛られてた深い感情を解き放つ。そうすれば、深い感情が作っている浅い感情も変わり、表面上の感情が変わり、そのことで言動が変わり、周りの人の心まで変わる。
クライアントを心の内に向かせる方法
熟練したカウンセラーはこの「恐れている」ものに本人が気づけるように
クライアントの言葉を秀逸に選択して返すことにより、考えの方向づけを図り、
巧妙な質問をして、「自分」の深部を見つめさせ、
クライアントの心理に近いことを言って、考えるための呼び水を向け、
今まで考えたことのない方向へ誘(いざな)う。
そしてやっと
- 相手の怒りに立ち向かえないのではないか、ということを恐れる
- みんなに見捨てられて何も出来なくなる、ということを恐れる
といった自らの無力感や非力さにたどり着く。
自分を縛っている縄の正体が、自らの内にあった、と気づく瞬間である。
カウンセリング成功の目安
この縄の正体を突き止めることで、今後の治療方針が固まる。
つまり、これをあきらかにすることが、カウンセリング成功の目安となる。
私はそうと分かっていても、なかなか心の内にアクセスするだけの鮮やかな技法を身につけることができない。なぜなら、「これが王道」というものがないからだ。
試行錯誤しながら、自分のスタイルに合った方法を編み出すしかない。
でも、それが出来れば患者さんに笑顔が戻る。だから難しくても、苦しくても、立ち向かわなければならないのだな、と感じている。